★ 標高1050メートルの八ヶ嶽南麓小荒間部落の中の小海線線路山側にもようやく春
が登ってきました。 早咲き桜が満開です。 周辺の原生林の中の白い辛夷コブシ も
満開です。 雪柳も満開です。 普通の桜の蕾が膨らみ始めています。 連翹レンギョウ
や姫辛夷ヒメコブシ も咲き誇っています。 いろいろな野鳥たちも、狐たちも、雉の一家
も、春の自然界は、創造主でいらっしゃる神さまを讚美する名アナウンサーです。
★ 昨夜から今朝にかけて春の雨が降りました。 今朝は外気温が2度でした。
早朝、降る雨を眺めながら、かつてソウルの清渓川チョンゲチョン 貧民窟6万人の住民たち
の中から、帰農を希望する百余世帯を、朝鮮半島西側の黄海に面した南陽湾ナムミャンマン
に集団移住させたときのことを思い出していました。 1973年ころの話です。
★ 現在のように急速に経済的発展を遂げた韓国とはことなり、当時の韓国農漁村部
は不便そのものでした。 しかしその当時、いくら国が荒廃していたとは言え、自然
は美しいものでしたし、人々の心は豊かであったと、懐かしく思い出しています。
ある日、南陽湾ナムミャンマン の水流を制御するため、徳利の首のような場所に設置され
ていた長い水門の上を、梨花里イファリから遠井里ウォンジョンニ の方向に向かって渡ったこと
がありました。 二つの部落の間には、長い長い水門と、その上を走る未舗装道路が
延々と続いているだけで、一軒の農家もなく、行き交う車もなく、通行人もおらず、
乾き切った黄色の大地だけが、何キロとなく続いていました。 近くて遠いは田舎の
道‥と言いますが、文字どおり遠い田舎道でした。 水門の南側の遠井里まで10キロ
はあったかと思います。 2時間半ほどの砂ぼこりのうんざり道でした。
★ そうとうな距離を独りで歩いて行ったとき、学童3人が同じ方向に向かって歩い
ている姿を発見しました。 学校からの帰りのようです。 片道10数キロの通学路の
ようです。 3名は何だか喋りながら楽しそうにゆっくりと歩いていました。
普通のおとなの歩く速度よりも遅く、時速3キロほどの通学路のように思えました。
私は、彼らに気づかれないようにそうっと彼らのうしろに続いて歩きました。
★ 未舗装道路は砂だらけです。 小石を蹴っとばしたり、投げたり、駆け出したり
しながら帰宅する元気のよい学童の後に従って歩けば、埃を被ること請け合いです。
彼らは私の尾行に気づいていないようでしたので彼らを観察しながらの長い田舎道
もそんなに苦にはなりませんでした。 むしろほっとした気持ちでいました。
★ そうこうしているあいだに雲行きが怪しくなって来ました。
大陸的気候圏内の南陽湾ナムミャンマン です。 またたく間に降雨となりました。
雨宿りできるような人家も納屋もなく、枝を張った大きな立ち樹もありません。
私は持参していた折り畳み式のレイン・コートを取り出し頭にはフードを掛けまし
た。 しかし3名の子供たちを囲い込むほど大きなレイン・コートではありません。
自分だけ濡れないで、子供たちだけが濡れるのを目撃することに気がひけました。
恥ずかしいような、気の毒なような、申し訳ないような複雑な心境でした。
そのときです・・ 上級生らしい男の子が畑の中に走って行きました。
そして、畑に捨ててあったからっぽの肥料袋を拾って戻って来ました。
その紙袋の一辺を上手に手早く割いて三角づきんを作り、それを二人の下級生の頭に
かぶせ、両腕を広げて二人の下級生の肩を抱えるようにして、彼らは再び歩き始めた
のでした。
すばらしい生活の智恵、生きた生活の智恵の作品を目撃した瞬間でした。
物質が極端に不足していた韓国農村、疲弊しきっていた海辺の農村で目撃した感動的
な一瞬でした。 そしてその上級生の心の豊かさに深い感動を覚えました。
時速3キロの歩みでしたが、その道の先には輝く未来の韓国を見たように思いまし
た。 時速3キロでよいではありませんか。 豊かな思いやりの心がある限り・・
★ それに引き替え、物質だけが有り余るようになった我が国では、学童たちの心も
人々の心も乱れ、損得という基準だけが優先し、思い遣る心を失い、共に歩む歩調を
失ってしまいました。
物質と財貨への異常な所有欲だけが支配しているようです。 親が吾が子を殺し、
子が親を殺し、若者が加齢者を襲うという、心が病んだ国になってしまいました。
少なくともクリスチャンの交わりの世界においては、新幹線の速度ではなく、損得
の基準ではなく、時速3キロの速度で、弱い者を慈しみながら共に歩む心を取り戻す
必要があると私は思います。 それが主イェスの望まれていることでしょう。
『私の弟子であるという名のゆえに、この小さい者の一人に冷たい水一杯でも飲ま
せて呉れる者は、よくよく言っておくが、決してその報いから漏れることはない』
マタイ傳10章42節