『エリヤ、オバデヤ、アハブ、イゼベル、バール、雨』

★  前回号の続きで、豫言者エリヤのことですが‥
英語ではエライアス Eliasとかエライジャ Elijah ですが、ヘブライ語ではエリヤフ
Eliyahu です。  その意味は、「ヤハヴェは神なり」ということです。

  西暦前9世紀を生きた豫言者ですから、おおよそ3千年前の人です。
ヨルダン川東岸ギリアデ地方ケリテ川添い奥地テシベ Tishbe の出身です。
ユダヤ教の教典にも、イスラム教のコーランにも登場している人物です。

  列王紀前書17章ですでに学びましたように、豫言者エリヤは死者をよみがえらせ、
18章では天から火を降らせることをこれから学びます。  さらに列王紀後書2章では
つむじ風に乗ってエリヤは天に昇っていった‥と紹介されています。

  マタイ傳17章1節~8節では、イェスがペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄弟ヨハネだけ
を連れて高い山、ヘルモン山に登られたときに、イェスが変貌されただけではなく、
変貌されたイェスにモーセとエリヤが会話している姿をも描いています。

★  次にアハブ王のことです‥
オムリ王朝創始者オムリ王の子でその継続者です。  「父の兄弟」という意味です。
いくつかの町を建てた王で、象牙造りの宮殿を建てたとも言われています。

  旧約聖書では、オムリ王朝のことを、編集目的で軽く扱っているように思います。
しかしこのときにイスラエルは大きく成長し、厳しい国際的緊張の中にありました。
  アハブ王のことも、列王紀略の著者は、故意に悪く書いているように思います。
しかし、まあそのことは、アハブの王妃のイゼベルがバアル信仰を国に導入したから
だと、そのように私は考えています。  酷い女性であったことは確かなようです。

  すなわち、国力増強のためにシドン王エテバアルの娘イゼベルと結婚しました。
このことでフェニキヤとの同盟を堅固なものにしました。  その背後には、シリアと
の紛争がしばしばあり、フェニキヤとの同盟を必要としたようです。  外国勢と多く
の戦争を経験し、勝利を収めた武将です。  通商手腕も上手であったようです。

  アハブ王全盛時代のイスラエル側、エホヴァ側の豫言者がエリヤでした。
軍事的必要性や通商拡大と確保政策のため、物質繁栄神バアル崇拝がイスラエルの中
に堂々と持ち込まれていました。  バアル崇拝者であるシドン王の娘を娶ったため、
バアル信仰が公認され、イスラエル国内に公然とはびこることとなったのです。

  妻イザベル Jezebel(邪悪な女、毒婦、妖婦、放埒女、淫婦などの代表名)は自分
が信奉するバアル神のために神殿を建て、アシラ像を造り、そのために多くの祭司を
養っただけでは満足せず、エホヴァの豫言者たちの殺戮を図り、エホヴァ信仰の絶滅
を計画していたのでした。  イスラエルに於けるフェニキヤの利権擁護を強力に促進
した女性です。  これがエホヴァ神の豫言者エリヤの活躍した背景です。

  黙示録2章20節~23節に登場するイゼベル、すなわち、テアテラのクリスチャンを
誘惑し、不品行に誘い込んだ女預言者として紹介されています。  エリヤが挑戦した
イザベルを意識したものでしょう。  聖書に登場する人物の名をわが子につけること
が多い欧米人ですが、私はこれまでに一度もイザベルあるいはイザベルという女性に
出会ったことがありません。  悪女の代名詞となっているのでしょう。

  そのほかにも、アハブの宮殿の隣接地の葡萄園を、その所有者を殺して略奪すると
いう酷いことをイザベルはアハブ王のためにやってのけたのです。  21章です。

  これらからも、不可視的で霊的なイスラエルのエホヴァ神と、可視的で豊饒を謳う
フェニキヤ人の肉欲偶像神バアルとの対決を招くようになることは必定でした。
これらが、神の人エリヤが活躍した時代です。

  イェスが、マタイ傳6章19節~34節で警告なさったように、また、使徒パウロたちが
 警告していたように、物質欲の神と、永遠の生命を司られる神の両方を共に同時に
つかもうとすること、すなわち、「二足の鞋を同時に履くこと」は、私たちの信仰と
その信仰生活に於いて、これは基本的にまったく不可能なことなのです。

★  次は、オバデヤ Obadiahのことです‥
名の意味は「エホヴァのしもべ」という意味のようです。
最近では「エホヴァ」とは呼ばずに、「ヤハウェ」と呼ぶようです。  善い名です。
旧約聖書では12名のオバデヤが登場しています。  みんな同名異人です。

  列王紀略上書18章3節~16節に登場するオバデヤは、アハブ王の高官のことです。
アハブ王妃イゼベルがバアル礼拝を推進するためにエホヴァの豫言者たちを殺害した
とき、エリヤなどエホヴァの豫言者を保護しています。
  18章のクライマックス、カルメル山に於けるエホヴァ神とアアル神との対決の機会
を、エリヤのために政府高官オバデヤがお膳立をしています。  何ともすてきです。

  人気さっぱりの麻生太郎総理はローマ教会員とか‥石破茂農水産相もクリスチャン
とか‥もしそうならば‥50年先、百年先のこの国と世界の将来を見据えて、神の僕と
して、人類史に名の残るような清廉で崇高な政治力の発揮を願いたいものです。

★  最後にバアル Baal のことです‥
「所有者」という意味の名です。  シリアとカナンの豊饒肥沃の神です。
バアルが所有する土地には豊饒肥沃をもたらすものと考えられていました。

  荒野放浪民であったイスラエル人たちがカナンに定着するようになり、農耕生活に
移行するに従い、その地元の豊饒肥沃神であるバアルとの関係を持たざるを得なくな
り、バアルからの影響を受けざるを得なくなってゆきました。  そこから、エホヴァ
神とバアル神との混合宗教的な傾向が強まりました。
エホヴァ信仰者には危機感が高まりました。エリヤの登場となって来ます。

  同じようなことが、私たちのイェス・キリストへの信仰に於いても見られます。
初代原始教会の在り方からこん日の私たちの在り方を考えてみますと、同じように、
もともとは目に見えないイェスの福音が、可視的なものへ、モノ中心主義へ、オカネ
中心主義へ、複雑化した宗教儀式中心主義へ、位階聖職者中心主義へと移行し、視覚
に訴える可視的面強調の「キリスト教」へと変化してしまっています。

  この点でローマ教会は、聖書が何も語っていないクリスマス祭りにも見られるよう
に、進出して行ったヨーロッパ各地の地元の宗教との迎合に対して特に上手です。

  しかし目に見えない神、霊なる神と、この世的なものとの葛藤を旧新約聖書は一貫
して私たちに問いかけています。
  そのことは、たとえば、ロマ書12章やコリント後書4章16節~5章9節でも感じる
ことができでしょう。  あとは皆さんがバアルをどのように扱われるか‥でしょう。

★  ついでに雨のことにも触れておきます。
「触れておきます」と述べたものの、残念ですが、私は地中海沿岸学を専攻したこと
が全くない人間ですので、責任を持つことができません。  無責任なことです。

  その意味では、「レバノンの白い山・古代地中海の神々」山形孝夫著未来社発行や
「旧約聖書の世界・その歴史と思想」米倉充著人文書院などをお薦めします。
  後者はアマゾンで1円から入手できます。   109頁-117頁が直接に役立ちます。

  地図を見てみますと、そして地球の上の成層圏を流れるジェット気流のことを考え
てみますと、大西洋の気流が、狭いジブラルタル海峡を吹き抜けて、地中海へと流れ
込むことを理解するのにそれほど困難を伴いません。  そして突き当たりのレバノン
山脈にぶつかることも理解できます。  山脈にぶつかった湿気はそこで雨となります
し、冬にはレバノン山脈に雪を降らせます。

  ジブラルタル海峡から見て地中海の突き当たりに位置するパレスチナは、いわゆる
地中海型気候圏内といいましょうか、気象条件圏内にあります。  温帯冬雨気候とも
言われています。  夏の乾燥期と冬の降雨(降雪)期に大きく分かれています。

  夏には降雨が全くありません。  したがって乾燥しており、暑いです。  この気候
は農耕民族にとって厳しいもとなります。  冬期に降雨がありますが、レバン山脈に
当たって降雨すれば、そこから先(東方)に雨が降らないということになります。
豊饒肥沃神バアルと農民にとって、降雨がないということは、深刻な脅威です。

  日本のように黒潮の恩恵を受けている列島では、乾季がもたらす恐ろしさを充分に
理解できないかも知れません。
  雨を支配するということは、エホヴァ神にとっても、バアル神にとっても、これは
その地の支配権を示す重要な課題なのです。

  通常10月末から11月にかけ冬の降雨があります。  地面を潤し、農耕作業を可能に
します。  この時に充分な降雨があれば翌年の豊作が予想できます。  秋の雨です。

  冬の雨は12月中旬から2月末にかけて大量に降る長雨です。  土地は充分に潤い、
各家庭の水甕は満たされ、井戸も満々と水を蓄えることができます。  生命に繋がり
生命を保証する恵みの雨ということになります。

  春の雨は3月~4月に降ります。  夏の作物の成育を保証します。  穀物の豊作を
約束する「恵みの雨・祝福の雨」です。  雨はバアル神にとって強力な味方です。

  ここに、バアルの神に頼って豊作と豊饒の保証を得るということが、農民にとって
家族一同のみならず、家畜を養うためにも、農作物の豊作のためにも極めて重要課題
となるのです。  バアル信仰が根強く定着していた理由です。
雨を支配するということは、実に重要な宗教的意味を持っていたわけです。

  現在のイスラエルが強力な軍事力を配置している箇所に、東北側の隣国シリアとの
国境地域で、紛争の絶えない箇所があります。  ゴラン Golan高原です。
  宿敵シリアを一望できる重要軍事拠点としてのゴラン高原の価値を報道は取り上げ
ているようですが、ゴラン高原に降り注ぐ地中海からの湿気を含んだ季節風が大量の
恵みの雨をもたらし、イスラエル側の貴重な水甕になっているのです。
  このようなことが、列王紀略上17章と18章の背後に隠されていたのです。